




「裕美ちゃん、イヤリングはずしてみて!」
いきなり学校近くの喫茶店で、ニューハーフの先輩に言われました。
大学時代のとある研究科でたまたま一緒だった1つ先輩の彼(彼女)。
いつもツルツルのゆで卵のような顔に隙なくお化粧を施し、
長い巻き髪を細い指でかきあげ、フリルのブラウスにパンツスーツという
「完璧な美しさ」で登場していました。
う~ん、女性の私が見てもため息・・・。
で、何を思ったかその彼(彼女)が、
同姓の後輩として私のことを気に入ってくれたようなのです。
よくお茶に誘われては「女の人はもっと美しいしぐさを真剣に研究するべき」
という持論を、聞かされていました。
当時既に銀座のお店で活躍していたらしい彼(彼女)は、
映画や女優の動きを観察しては、
彼なりのストイックな修行でエレガンスを身につけていたのです。
ただしそんなこと言われても、もとから女である私にはぴんと来ず、
「はいはい」って感じで聞き流していました。
で、「裕美ちゃん、イヤリングはずしてみて!」と言われたときも、
「は?」と思いながらも、当時まだ10代の素直な私。
右手は右耳の、左手は左耳のイヤリングに手をかけて、
せーのー「ブチッ」と真横に引き抜きました。
(ピアスではないので、大丈夫、耳はちぎれません・・・)
それを見ていた彼(彼女)、
「あ~、もう全然だめね~」と白いおでこに絶望したように手を当てて、
「いい?今から私が言う事を良く聞いてね」と。
「裕美ちゃん、右のものを取るのに右手を使ったらダメよ!
右のものを取る時には左手を使いなさい。
体の前を反対側の手がクロスする事が大事なの。
たとえば、右耳のイヤリングをはずす時は、
少し体を斜めにして左手を持ってくるの。
そのとき右手は左手に添えるように当てるのよ。
やりにくいでしょ、それが大事なの。
あえて不都合な動きをする事で、
体に緊張感が生まれてしぐさが美しくなるのよ。
わかった?」
「わかった?」って言われても・・・ねえ?
で、それからも油断してると「イヤリングはずしてみて」の課題がいきなり出され、
そのたびに学習能力のない私は、真横に「ブチッ」。
「あ~あ~とても銀座には出れそうもないわね~」と冗談交じりに言われました。
(別にそれでいいから!)
ニューハーフの先輩が期待した「女らしさ」は残念ながら少しも身に付きませんでしたが、
「やりにくさや不都合、非効率が生み出す美しさ」はキーワードとなって私の中に残りました。
作品を作るときも効率を求めていないか気になります。
まさか、こんなところにもカラコレスのエッセンスが落ちていたとは、ね!
彼というか彼女に感謝です。
カラコレス・プリザーブド&ドライアートスクール代表 坂本裕美