
窓と風船 あわや大惨事
夏のコペンハーゲンで滞在したアパートメントは築100年のレンガ作りの6階建て。
最上階の部屋の窓から見る外の景色はクラシックで静かに統一されていて、空を飛ぶかもめと好対照。遠くにはデンマークの風力発電の象徴でもある3枚羽の風車が3基回っているのが見えます。
写真にとどめておきたいような素敵な風景をたくさん見せてくれたこの窓ですが、ひとつだけ今でも心臓が縮まりそうな思い出があります。

7月といえども日本の暑さとは違い、家中の窓を開け放せばエアコンはいりません。その日も窓という窓を全開にしていました。二重のガラス戸が観音開きになっていて、一枚は外側に、もう一枚は内側に開く仕組み。網戸などありませんが、虫も入ってこなくて快適。ただし窓の外側に柵もなくて、ここからモノを落としたら大変。どのおうちも窓枠にグリーンのポットやキャンドルスタンドを置いてあって素敵なのですが、もしそれが窓の外に落下したら・・・と思うとそれがいつも気になっていました。
その日、子供たちは広いリビングで紫色の風船を膨らませて遊んでいました。

直径40センチくらいのかなり弾力のあるゴムまりのような風船。それはゆっくりと弾んで部屋のすみから廊下へ移動、そしてドアを開けたベッドルームへ。ゆっくりゆっくり空気に乗って弾んでいきます。子供たちもはしゃぎながらあとを追いかけます。かなり大きい風船なので、まさかそれが窓の外へ飛び出すなんて考えもしませんでした。実際にその場面を目にするまでは。ベッドルームの窓がジャストサイズだったのです。まるで窓枠に吸い込まれるかのように風船は静かに外へ。 一瞬唖然
と、同時に私も玄関ドアから飛び出していました。アパートメントが2つ続いた先には4車線の広い通りがあるのです!頭の中ではすでに救急車や人だかり、大事故のイメージ・・・心臓破裂しそう。

ところが玄関ドアから出てもすぐには外に出られません。いつ来るかわからない木製のエレベーターなど待っていられず、階段を駆け下り、もうひとつのアパートメントの共有玄関を開け(簡単には人が入って来られない仕組みになっているのです、ああでもこんなときにー)ようやく外に出ると、紫色の風船はすでに大通りの直前までいっています。
石畳の大通りはバスも通ればバイクも自転車も・・・。「もうだめ、間に合わない」と思った瞬間、風船が大通りを渡り始めたのです。ぽよ~~ん、ぽよ~~ん。まるでスローモーションをのようにのんびりと。4車線の道路を3段とびのように渡っていく風船を、バイクや自転車はうまくよけ、バスや車はいつもながらのスピードで。その間数秒だったかと・・・。
通りの向こう側で5歳くらいの女の子が待っていて風船を両手でつかまえました。ベビーカーを押しているお母さんに「ほら見て!」と、すごくうれしそう。お母さんも「良かったね」と笑顔を返して、そのまま風船を持って歩き出しました。
まるで何事もなかったかのような景色の中で、その場に座り込みたいのをようやく我慢。良かった、あわや異国で事情聴取になるところでした。あの子はどこから飛んできたとおもったかしら、風船がひとりで道を渡ってやってきたのですから・・・。
それからというもの、「風船を膨らませる時は窓を閉めること」という取り決めが増えたことはいうまでもありません。