窓にまつわるお話

ひと夏を過ごしたコペンハーゲンのアパートメント。
私たちの家は最上階の6階にありました。
他の階と違うのは、屋根の傾斜がそのまま壁になっている部分があり、斜めの壁にところどころ垂直に窓が切ってあるところ。
築100年のアパートの、ぎしぎし言う木枠の窓を開けて風を入れるのは、なかなか趣があります。家中の窓を開ければ風が通り、夏でもエアコンの必要はありません。

ここ最上階からの眺めはさえぎるものがありません。
青い空にかもめが飛んで、海の近くだと教えてくれます。
見渡す限り続くアパートメントの屋根と煙突。遠くに風車も見えます。
アンデルセンのマッチ売りの少女の世界を思い出します。

どの窓にもカーテンはありません。
キャンドルや、デンマークの伝統的なクラフト、風に揺れるモビールなどがデコレートされていて、通りから眺めてもらうのを待っているみたい。
日本に居て、よそのお宅の窓を楽しみながら歩く事はありませんが、ここコペンハーゲンの窓達はサービス精神旺盛です。

実際夜になって、家々の窓にキャンドルが灯ると、揺れる様な幻想的な世界が広がります。
夕闇に、少しずつキャンドルの明かりが増えていく様は、窓辺を立ち去りにくくします。
アパートメントをはじめて訪れた日、4つの部屋に50ものキャンドルがセットされている事に驚きましたが、日がたつにつれそれが必需品と分かりました。
ひと月暮らすあいだに、私たちも食事前キャンドルに火を灯すのが習慣になりました。
揺れる灯りの柔らかさは、なんともいえない安堵感をはこんで来てくれるのです。

部屋の内側の出窓のスペースには、どの部屋にもグリーンの鉢植えが2つセットで置いてあります。
オレンジや、リース型に仕立てたアイビーなど。
同じ種類の同じサイズのものを、2つ対称で飾るのは北欧のスタイルでもあるのです。
単品で飾るより格段にモダンに見えます。
ついつい2対1なんてバランスを崩したくなる私ですが、ここ北欧の景色の中に、シンメトリックなアレンジはなくてはならないもののように思えました。